新任教員Q&A

このページでは、新任の教員が抱える悩みに対して対談形式で回答をしています。 第三話へと続く予定です。

  

新任教員Q&A 第二話

保育園で園長をしながら養成校で非常勤講師として教えることになったT朗さん。

授業を始めて2か月目。先輩教員のS谷先生と久しぶりに会いました。

 

S谷「どう、授業は?」

 

T朗「だいぶ慣れました。でも学生も同じように慣れて、おしゃべりが最近増えて困ってます」

 

S谷「あらら」

 

T朗「授業中にトイレに行くのか、途中で外に出ていく学生もいるんです」

 

S谷「それがわかっているってことは、よく学生の様子を見ている証拠だよね。私も授業の初回とか、200人以上のクラスになると、そういうことがあるので、講義をしながら『後ろ2列赤シャツ、途中退室』、『前3赤髪睡眠長いし!』とか気づいたことをメモしてる。それでコメントシートを書く時間になると、机間を回って寝ていた学生には「どうした?体調が悪い?」なんて声をかけていく。そうすると次からはなくなるよ」

 

T朗「先生も気がつきすぎじゃないですか」

 

S谷「だって元保育士だもの。全体を見るのは得意なのよ」

 

T朗「おしゃべりはどうしてるんですか」

 

S谷「おしゃべりは、本当は大いにしてほしいよね。一日中黙って座ってノートを取っていたら、保育者に必要な力がつかないでしょ。ほんとは授業のはじめと最後と途中で階段の登り降りをさせたいぐらい。だから講義科目でも、二人組で『ここまでで質問はないか相手に聞いてください』とか、『この概念を1分で説明しましょう』とか、そんな課題ばかりする。

それに驚くような内容や楽しい内容の場合、絶対おしゃべりしたくなるはずでしょう。『どんな感想を持ったかお互いに話しましょう」と話す時間をとった方がいい。だって日本の大学ではすぐに次の授業が始まり、一つひとつのことをしっかりと考えたり表現する時間がないもの。学生には表現上手になってほしいし、保護者に説明する力もつけてほしいじゃない」

 

T朗「そっかー、静かに座っててはいけないって考え方もあるんですね」

 

S谷「そうよ、それじゃあ、子どもの主体性を大切にと言いながら、ずっと先生の指示で動かす保育みたいでしょ」

 

T朗「でもおしゃべりしている学生には『そこ静かに』とか、つい言っちゃいます」

 

S谷「私もそういうときもあるよ。でもまあ保育だって、いかに保育者が不要な言葉を言わずに我慢するかってところがあるじゃない。ザワザワ状態になった原因が何かあるときには、しばらくしゃべる時間にすればいいし。それに教員は、学生のロールモデルだから、『静かに!』だと素人っぽくて芸がないでしょ。黙ってみたり、小さな声で話してみたり、物や人形で引き付けてみたり、端に動いてみたり、電気を消してみたり、ベルを鳴らしてみたり、歌ってみたり、保育に活かせるいろんな技で注目を集められると楽しいよね」

 

S谷「私も学生が目につきすぎるから、学生がおもしろくなさそうにしているときにはとても気になる。でも授業のせいではなくて、失恋したかもしれないし、進路で悩んでいるのかもしれない。半分目をつぶるんだと、自分に言い聞かせるようにしてるよ」

 

T朗「なるほど~、保育と同じですね」

 

 

新任教員Q&A 第一話

 

S朗さんは保育園の園長先生。請われて養成校で非常勤講師として教えることになりました。恩師であるT谷先生に、授業内容の相談にやってきました。

 

 

S朗「採用されるにあたって履歴書に業績書、山のように書類を出したら、次は授業科目のシラバスを一週間以内に出してほしいと来ました。って、シラバスってどうやって書くんですか

 

T谷「まずは、厚生労働省の通知を見て、その科目のねらいと内容を参考に書くことね。またインターネットで「科目名」と「シラバス」で検索すればたくさんのシラバスを読むことができるから、それを参考にして書くこともできるわよ。研究会ではモデルシラバスも掲載する予定だから参考にしてね」 

 

S朗「初めて授業をもったときって、どうやって授業内容を組み立てたんですか」 

 

 

T谷「シラバスの作り方も、保育課程や教育課程と全く同じ。科目の大きな目標を立ててそれに合わせて内容を考える。そしてその目標とプロセスを評価する…って普段保育でやってるよね?」

 

 

S朗「でもその内容を15回分も思いつかないですよ」 

 

 

T谷「保育は、年間約300回×012345歳児クラスぐらいだから、素材はそろっているはず。それを指針に合わせて整理して考えてみたら? あなたが担当する授業は、保育内容環境だよね。指針や要領に示された保育内容の環境で扱う内容は?」 

 

 

S朗「自然、季節、動植物、物、数量、図形、標識、文字、近隣の生活、施設、行事なんかですかね」 

 

 

T谷「さすが保育者だね、じゃあ子どもの経験として特にS朗さんの園で重視している活動は?」 

 

 

S朗「できるだけ自然にふれるように散歩に行くことと、野菜作りと調理ですかね。これを話せば3回ぐらいかな」 

 

 

T谷「そうだね、90分間自分が全部話そうと思わずに、講義は30と考えるとどうだろう。たとえば散歩に関する実践を30分ビデオかパワーポイントで見てもらって、グループで子どもが豊かな自然体験ができる散歩と、そうでない散歩を考えて発表する時間を40分、子どもが豊かな自然体験ができるために保育者は何を行うかをコメントシートに書いてもらう時間が20分で、これで一コマ90分」 

 

 

S朗「そんな感じならできそう」

 

 

T谷「授業の90分間で、学生たちが何を体験して何を学び取るかを中心に組み立てるといいと思うよ。考え方は保育と全く同じ。学生が何を学ぶかを考えると、活動性の高い授業になるよね。それに、子どもたちに『おもしろそう』とか『やってみたい』って気持ちを起こすことは得意技でしょ? 相手がちょっとだけ大きいけど」 

 

 

T谷「また領域の視点から発達を押さえて活動を理解することと、活動を総合的な視点から分析することの両方ができるといいよね。たとえば数量認識の発達を理解していると、発達に合わない教育をしなくなるよね。また数量体験ができる多様な活動を知っていると、変なノウハウに頼らなくてよいし。

 

またクッキングという一つの活動には、数量、道具、日本の食文化、野菜の性質、季節などさまざまな内容が含まれているじゃない。一つの活動のなかに含まれる経験を、指針や要領の視点で分析できるようになるといいよね」

 

S朗「そんなハイレベルなことが、学生にできるんでしょうか」 

 

 

T谷「演習課題をやっていけば多くの学生ができるようになるし、細かなことがわからなくても、授業で保育の原則的な部分をつかみとれれば、現場に出てから伸びるよね。書いたり説明したりする経験が多い学生は、保護者に対しても保育内容を説明できるようになると思うよ」 

 

 

S朗「そうかあ~、保育と保育者養成の本質は同じだとわかると、授業をつくるのがおもしろくなってきました。でも数量認識の発達なんて説明できないから勉強しないといけないですね」

 

 

T谷「そういうS朗さんの学びの姿勢は、学生に伝わると思うよ。学生の学びは、教員が持つ正解を覚えることではないから、“ここは自分にはよくわかっていないところで勉強不足”と話すことがあっていいと思う」 

 

 

S朗「うわあ、気が楽になります」 

 

 

S朗「ところで、評価には出席点を入れてはいけないと言われたのですが、テストだけで評価するっておかしくないですか?」 

 

 

T谷「文科省の指導でシラバスには出席点を入れないところがほとんどだと思うけど、演習科目では演習に参加してなんぼ、だから、提出物評価で出せばいいんじゃない? 私は出席を取る時間がもったいないので、100人でも毎回提出物を出してもらう。でも出席して演習もやったのに最後の課題で関係ない回答を書く学生がいるとほんと困る。『〇〇を説明せよ』と課題を出したのに、『今日の授業は楽しかったです』とかね」 

 

 

S朗「読むの大変そう」 

 

 

T谷「非常勤の先生の場合は、現場と授業の両立だけでも大変だと思うからそこまでする必要はないと思うけど、専任の場合は学生の教育が職務なので自分の授業成果を確認するのは必要な仕事だと思うのよ。それにコメントシートを読むのは授業よりも楽しかったりするわよ。もしも学生のコメントシートを読むのが楽しくなくなったら、教員の辞め時かもね」 

 

 

S朗「ひゃー、きびしー」